「予防歯科」とはクリーニングだけではありません

「予防歯科」とはクリーニングだけではありません

あなたは、「痛くなったらなったら歯医者に行けばよい」と思っていませんか? しかし、この考え方は非常に恐ろしいことです。どんなに高い技術や知識を持った歯科医師でも、歯を削った後に歯と人工物(詰め物や被せ物)の隙間を、まったくなくすことはできません(もちろん、健康な歯には隙間はありません)。一度削ってしまった歯は戻ってこないだけでなく、治療で虫歯が治っても、削った歯は再度虫歯になるリスクが上がる傾向があるのです。そのリスクを少しでも減らすのが歯科医による精密治療であり、患者様の予防意識です。

子供の予防歯科~まずは虫歯にしないこと~

特に、この先長く使う子供の永久歯はまだやわらかく、虫歯にかかりやすいという特徴があります。その子の一生に関わることですので、予防はとても重要です。歯科医院に行って検査とクリーニングを受けるのは最低限必要な事ですが、これだけでは十分な予防とは言えません。子供のためにどのような歯医者を選ぶかも、親御さんの責任です。また、一番大切なことは、毎日のセルフケア(ご自身でのブラッシングやフロス)。まずは虫歯にしないことなのです。

どのように毎日のセルフケアを行えばよいのでしょうか?

どのように毎日のセルフケアを行えばよいのでしょうか?

予防に大切なのはセルフケア。それは歯科のプロからブラッシング指導を受けていただくことから始まります。親御さんにどのようにブラッシングするか知っていただき、実践してもらうことが必要になります。ブラッシングは子供任せではいけません。親御さんが知識をつけ、仕上げ磨きをしてあげてください。

また、フッ素の塗布や栄養指導、唾液検査、的確なクリーニングが有効です。万が一、子供の時期に永久歯が虫歯になってしまった場合にも、「子供の歯だから普通に治療してもらえばよい」と思わないでください。その歯は、その子が一生使う歯です。きちんと精密治療を受けていただき、2次虫歯にしないことが大切です。私は小学校の学校医をしていますので、小学校の健診の時に、永久歯が2次虫歯になっているケースをよく見ています。

実は子供の永久歯は、治すのが難しいのをご存知ですか?

実は子供の永久歯は、治すのが難しいのをご存知ですか?

子供の永久歯は大人の永久歯より虫歯治療が大変です。唾液が多く、正確な治療をするとなるとラバーダム(患部への唾液の浸入を防ぐシート)が必要ですし、歯は小さく神経が大きいので、虫歯を除去すると神経に近づきすぎることもあります。治療の際に神経がダメになってしまうことも考えられるのです。ですから、その歯を一生持たせるためには、“虫歯にしないこと”が最も大切であることがおわかりいただけると思います。

万が一、虫歯になってしまった場合には、ラバーダムと拡大視野下を使用した精密治療を受けていただき、2次虫歯の予防に努めます。2次虫歯とは、治療した場所から再度虫歯になることで、虫歯の発見が遅れる場合が多く、決して珍しいことではありません。

大人の予防歯科

大人の歯も、子供の予防と同じく、毎日のセルフケアがとても大切です。そこで、口腔内のリスクを年代別に考えてみましょう。

年代別 口腔内の病気のリスク
20代 虫歯のリスクが高い時です。
30代 虫歯のリスクのほか、歯周病のリスクも高くなります。
40代 噛み合わせの問題から、歯や歯周組織にダメージが起きる傾向にあり、頭痛やめまい、肩こりを発症する方も増えます。歯周病のリスクも高くなります。
50代 歯茎の衰えなどから根面が露出し、その部分が虫歯になるリスクが上がります。また、40代と同様のリスクもあります。
60代 これまでの積み重ねによって歯を失うリスクが高まります。特に、過去に神経を取った歯や虫歯治療を受けている歯は要注意です。
70代 歯を失い、入れ歯やブリッジにすることにより、残っている歯にダメージを受け、欠損部が多くなる(抜けている歯が多くなる)可能性が高まります。また、40代以降のリスクは同様です。
80代~ ご自身でのブラッシングが困難になる方もいらっしゃいます。また、歯科医院への通院も難しくなりますので、さまざまな問題のリスクが高まります。80代になる前に、ご自身の口腔内をきちんと整えておく必要があります。
口腔内の病気を予防するには

歯周病も虫歯も歯に残った汚れ(プラークや歯石)が原因です。すべての世代において、きちんとしたセルフケア方法を知っていただくことが必要になります。汚れの染め出し検査を行い、歯科衛生士が一人ひとりに最適な口腔衛生指導を行います。

虫歯にかかりやすい人は唾液検査を受けていただき、虫歯になる本当の原因を見つけ出し、食生活とご自身の口腔内の細菌の改善を行います。必要があれば、栄養指導も行います。また、噛み合わせの悪さも虫歯や歯周病の原因になりますので、噛み合わせの分析が必要な場合もあります。それでは、あらゆる要因を踏まえた上で世代別に予防法を考えてみましょう。

20~40代

虫歯や歯周病にかからないように、少なくとも6ヶ月に1度の定期健診とクリーニングを受けましょう。クリーニングは、高い知識と技術力を持った歯科衛生士に行ってもらいます。また、将来、虫歯や歯周病にかかるリスクが高いとみなされた噛み合わせの方は、矯正治療を受けるようおすすめします。

病院で調べても原因のわからない頭痛、めまい、ひどい肩こりといった症状は、病的な噛み合わせでのサインであることが多いものです。この場合には、バイトプレート(噛み合わせ矯正装置)を使用します。

50~60代

歯を失う多くの原因が、歯の根の部分が割れてしまう“破折”であることは意外と知られていません。歯の破折が起きると、歯の保存はできません。これは噛む力の分散がうまくできないか、噛み合わせに問題がある場合、神経が無い歯、過去に治療を受けている歯によく見られます。

歯ぎしりをする人や食いしばりの癖がある人も歯が割れるリスクは高くなります。歯が割れると歯周病のように、歯の周りの骨が吸収され(=溶けて)、無くなるので、歯周病という病名をつけられることが多いです。

その予防法として、バイトプレートという硬い樹脂製のマウスピースを使用していただきます。一人ひとりに合わせてきちんと調整できていないものは、逆効果になることもあるため、これには精密な調整が必要になります。

また、根の部分にできる虫歯予防には、高濃度のフッ素を塗布し、ブラッシングを的確に行っていただくしか予防法はありません。過去の治療がうまくできていないことが原因の根面虫歯には精密治療を行い、虫歯の再発の予防をします。

70代

現段階での問題をできるだけクリアにして、老後に備えることが大切になります。口腔内の細菌や病的な咬合力(噛む力)への抵抗力が低くなる時期です。人間は、生きている最後の日まで“食べる”必要があるのです。ご自身の歯できちんと食べられる人はそうでない人に比べ、健康でいられる時間も長くなります。歯を大切にする(予防する)ことは、人生そのものを大切にすることと同じなのです。80歳を超えて、食べることで辛い思いをしていただきたくありません。

その他、根管治療の失敗など、歯を失う原因は多岐に渡ります。ほとんどの人がきちんとしたブラッシングの方法をご存知ではない中で、まずはセルフケアをきちんと知り、欠かさず行うこと。そして、6ヶ月に1度は定期健診とクリーニングを受けること。問題が起きたら、早期発見・早期治療(的確な方法かつ精密な治療)を受けていただく事が“真の予防”だと言えるのです。

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